神経系とトラウマ


わたしの知っている神経系から見たトラウマの仕組みと解消についての参考情報を書いてみようと思います。


 

トラウマとは神経系を巡る未解放のエネルギー

 

トラウマとは出来事そのもにあるのではなく、その衝撃のエネルギーが体を巡っている。トラウマとは考えや感情など、捉え所のないものではなく、物理的に神経系が高活性化状態、エネルギーが巡り続け休まることのない状態に恒常化している、のです。

 

11:40から、しろくまをヘリで追いかけ、麻酔銃を打ち込みます。 13:18あたりで、しろくまが麻酔から覚める様子が撮影されています。麻酔から覚める時、トラウマのエネルギーである神経系の活性化を解放(脱活性化)している様子が撮影されています。

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凄まじいエネルギーが体の中を巡っていたのです。これが解放されなければ、体の中を巡り続けるエネルギーは溜まり続け、休まることはありません。トラウマ化です。トラウマとは思考や感情ではなく、体に残ったエネルギーと見ることができます。

 

  • トラウマとは出来事にはない

トラウマ、というとみなさん”心の傷”みたいなものをイメージするのではないでしょうか?

 

その傷が、あるからこんな行動をしてしまう、自由さを奪われている。でも、それはたぶん、二次的なもので元にあって制限をかけているのは体に残る衝撃のほうです。

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そして、それは出来事には関係がない。身体のレベルになると、善悪の判断や内容は関係ありません。そこにあるのは、質感、衝撃の大小、波長、粒子感。。”身体感覚”です。身体に残った衝撃、それが心の傷の元、トラウマの本質、と考えてみることからわたしの知る情報を書いていきましょう。

 

 

  • 進化の過程と、脳の構造

人間になるまでの進化の過程、、脳は脳幹→辺縁系(?)→大脳の順に大きく3つの段階で進化してきました。それぞれ司る情報が違います。

 

脳幹は”身体感覚”を司り最も古い脳。辺縁系は”感情”を司る。大脳は”思考”を司る。

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これはロルフィングのトレーニングの時だったか、ソマティックエクスペリエンスのトレーニングの時だったか定かではないですが、このような脳の構造の話を聞いたことがあります。

 

 

  • 脳の情報の道筋

外界からの刺激は、脳幹(身体感覚)→辺縁系(感情)→大脳(思考)の順に高次の脳に伝わっていきます。

 

つまり、思考がある時は感情が必ずある。感情がある時は身体感覚が必ずある。のです。『思考や感情があるとき、必ず身体感覚がある』

 

 

  • トラウマとは出来事にはない

ある衝撃があり、トラウマ化したとします。トラウマの出来事は、どのように体にトラウマ化されるのか?それは、衝撃として体に残っている。つまり、脳幹に。

 

脳幹=身体感覚を司る部位です。そこに、思考や感情からのアプローチをしても、脳の構造上、届かないのです。

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思考を扱うトークセラピーや感情を扱うセラピーではトラウマの原因になかなかアクセスできず、トラウマのエネルギーが溜まっている脳幹にアクセスするには、本質的に体にアプローチする必要がある、という考え方が身体感覚からアプローチするトラウマワークです。

 

 


トラウマ化する仕組み、ポリヴェーガル理論

 

  • ポリヴェーガル理論

神経系のトラウマワークにはポリヴェーガル理論という多重迷走神経に関する理論が土台になっています。

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簡単に説明すると、動物の生存戦略について、観察すると神経系の状態は3つの状態があることがわかります。その3つの状態がトラウマ化と密接な関係があります。

 

 

  • 生存のための3つのモード

野生動物は生き延びる戦略として神経系は3つの活動をしています。①安心安全モード、 ②逃走/闘争モード、③フリーズモード

 

①安心安全モード腹側迷走神経が優位=社会性があり、平和な状態②逃走/闘争モード交感神経が優位=危険に対して対処している状態、興奮状態)、③フリーズ背側迷走神経が優位=死んだふり、硬直あるいは弛緩、気絶、仮死状態

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①安心安全モード、②逃走/闘争モード、③フリーズ、この3つのモードはそれぞれ支配している神経系が異なります。物理的に体を巡る神経そのものが違います。

 

 

  • 脅威に出会った時

自然界で野生動物が脅威に出会った時、①「安心安全モード」から②「逃走/闘争モード」に移行します。交感神経系は活性化します。

 

どんどん高まりますが、逃げ切れたり戦いに勝利したとき、そのエネルギーは使い果たされ体には残りません。ですので、トラウマ化もしません。

 

 

  • フリーズしたとき

一方、もし自然界で脅威と出会い、②「逃走/闘争」しても失敗した時、、最後の手段として③「フリーズモード」に移行します。死んだふりです。

 

この時の神経系の活性化状態、エネルギーの状態は異常に高まっています。

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その仕組みは、②「交感神経」がどんどん高まりつづけ、ますます高まります。→しかし、逃げきれない時、活性した「交感神経」をフリーズモードを引き起こす③「背側迷走神経」をさらにより活性化させて押さえ込みます。そして、フリーズするのですが、この時の神経系の活性化状態は、、もう焼き切れた、という感じでシャットダウンしてます。(アクセル全開だがブレーキ全開で無理矢理止めている。)逃げるための激しく活性化した②交感神経+それを抑え込むためにさらに活性化した③「背側迷走神経」、、とんでもないエネルギーが神経系を巡っています。走って逃げているより全然高い状態。

 

 

  • 野生動物はトラウマ化しない

野生動物はトラウマ化しません。フリーズして敵が死んだ獲物は食べない、と去った時に、仮死状態から復活します。

 

そのとき、体に巡っている異常なほどの高活性化エネルギーを全て解放します。

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そのとき、震えたり、涙を流したり、あくびをしたり、、して脱活性化するのです。エネルギーは解放され、通常モード、腹側迷走神経が支配する①「安心安全モード」に自然と帰ってくるのです。

 

 

  • トラウマ化する人間

一方人間は、大脳が発達しているがため、脱活性化の機会を逃すことが多々あります。つまり、異常な活性化状態、危機状態である死んだふり(フリーズ)状態のまま、日常に帰っていくのです。

 

トラウマを抱えたまま。すぐには気がつかなくても、だんだんなんかおかしい。うまくいきられない。

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 人目があるから泣かない、とか、こけて恥ずかしいからその場をすぐ立ち去る、とか。あるいは、医療の麻酔、神経系はフリーズした上に切られたりしています。そこから帰ってきた時に脱活性化をしないまま日常に帰ります。

 

 

  • 活性化のエネルギーのすさまじさ

シロクマが麻酔銃で撃たれてから、目を覚ます時に脱活性化を行っている映像があります。

 

どれほど凄まじいエネルギーが体を巡り続けているのかがわかりますね。

 

11:40から、しろくまをヘリで追いかけ、麻酔銃を打ち込みます。 13:18あたりで、しろくまが麻酔から覚める様子が撮影されています。

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身体システムのシャットダウン

ヘリで追いかけられ、交感神経は高い活性化状態となります。その後、麻酔を打たれることでシステムはシャットダウンされます。このとき、交感神経の高い活性化は解放されないまま閉じ込められ身体システムの中で回りつづけています。

脱活性化(目覚めへの解放)

麻酔から覚める時、しろくまはしばらくの間、震え続けます。これをdischarge(脱活性化)といい、閉じ込めれれていた神経系の高い活性化を解放しているのです。 自然界の野生動物はこの脱活性化を自然と行い、神経系の活性化レベルを通常状態の健康な状態にまで戻します。




 

トラウマでしんどいとは、過去の出来事にあるのではなく体が今そういう状態なのだ

 

  • その状態で生きるのはしんどい、帰ってきたい

ポリヴェーガル理論でみたように、トラウマ化した時は神経系が異常に活性化して日常モード、安心安全モードには帰ってきていません。

 

常に高活性化の危機モードで、日常を生きている。

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走り続けるよりずーっとしんどい状態を常に維持しながら生きている。その状態で生きるのはしんどい、、帰ってきたい。

 

 

  • 体と心の考察

高活性化状態の神経系、やむことのない巡り続けているエネルギー、休まることのない、、この体の状態。、、その活性化状態で考えること、感じること、、思考と感情。生きること、、連動してはいまいか?

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交感神経が活性化している、、イライラしたり焦ったり心配したり。。さらに高いフリーズ状態、、動けない、、無感動。なにもない。

このように生きている状態から、帰ってこられるのです。

 

 

  • トラウマからの回復、2つの目的

トラウマからの回復には2つの目的があります。ひとつは、神経系を巡っている高活性化のエネルギーを少しずつ抜いていくこと。脱活性化。もうひとつが、刺激でめちゃくちゃに反応してしまう神経系を「柔軟な安心安全モード」にいられる健康な神経系を手に入れること。

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過去を思い出したり、感情に整理をつけようとかではない。(←余計に活性化を高めてしまい、逆効果です!!)体に残ったエネルギーを少しずつ解放していくこと、柔軟な神経系(安全安心モード)で生きていけるように神経系が変容すること、が目的です。

 

 

  • 脱活性化の方法、少しずつが鉄則

トラウマ化された神経系を癒す一つの方法が、脱活性化。溜まったエネルギーを、少しずつ抜いていく。しかし、ここで注意が必要。

 

一気に大量に解放すると、逆にトラウマ化する。

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ダイエットのリバウンドのように、体は一気に変化しません。対応できず、逆に振れます。ですので、神経系の脱活性化は、少しずつ少しずつ。タイトレーション、と呼ばれるのですが、1滴ずつ、1滴ずつ、刺激を与え脱活性化していきます。少ないほど効果がある、とされます。

 

 

  • 柔軟な神経系をつくる

トラウマ化された神経系の特徴は、少しの刺激で一気に活性化状態が上がってしまうことにあります。これはしんどい。

 

トラウマワークの真の目的は、柔軟な神経系(日常を危機状態ではなく、安心安全モードで生きられること)を取り戻す、ことにあります。”解放”そのものが目的なのではない!解放が目的で真の目的を見失うと逆効果になる。

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不健全な反応をしてエネルギーを消費してしまう状態から、安心安全モードである柔軟な神経系を取り戻すこと、これが1番の目的でしょう。

ちょっと物音がした、、健康な神経系だと、それが何か確認できると(虎ではなく、コーヒーカップがちんと鳴っただけ)交感神経が活性化してもすぐに自然と脱活性化がおこり、安心安全モード、通常モードに帰ってこられるのでしんどくないのです。が、トラウマ化した神経系は一気に活性化が上がりなかなか帰っては来られません。

 

 


 

再トラウマ化してしまう解放ワーク

 

  • 解放ワークは危ない

巷に溢れる解放ワーク、みんな興味を持ち集まります。が、この神経系の観点から見ると、解放はあぶない。

 

そのとき、一時的によく思えても、長期的には不健全な神経系を作っていくトレーニングになってしまっている。再トラウマ化している。

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脱活性化はほんの少しずつ、ほんの一滴ずつすべき。(体は一気に変化しません。急激な変化にはリバウンドが来ます。急激な解放はトラウマを追加しています。)なのに、踊り続けたり、大声を出したり、物を殴ったり、目を見つめ続けさせたり、、神経系を活性化させることで解放させようとするワークがほとんどですね。ポリヴェーガル理論をみてください。活性化させ続けたら、、フリーズモードにシフトします。死んだふり、気絶のモード、、ここは脳内麻薬がでて(死ぬ状態)安息を得たり、解放を感じたりもします。エネルギーの再追加、、トラウマは解放されたようで、追加されています。

 

 

  • 出来事や感情にフォーカスしないこと

出来事を思い出させたり、感情にフォーカスしたり、どれもエネルギーを活性化させ再トラウマ化させます。

 

それらができるのは、十分にキャパシティができ、耐性とサポート、滋養を与えてくれるリソースがあること。それなしには、出来事や感情をみることなどできません。

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準備ができた時、対象にアクセスすることができる。しかしそれは、感情の爆発や興奮状態を伴いません。それは冷静で静かで美しい情景。感情の爆発や圧倒はありえません。多くの解放ワークは圧倒されボーッとするまで活性化させ、解放と勘違いしている。

 

 

  • 必要なのは解放ではなく統合

解放されることを目的としていると、フリーズモードに入りがち。必要なのは、健康な神経系を取り戻すこと。

 

安心安全モードで日常を過ごせること。不安に移行してもすぐに安心に帰って来られること。

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必要なのは、解放ではなく統合、まとまりをもって人としての存在を全うできること。ボディワーク、ロルフィングと同じですね。

 

 


 

しかし、神経系が全てだとは思わない

 

  • 神経系は人の存在の一部に過ぎない

神経系は体の一部であり、我々の行動やあり方に大きな影響を与えています。このことを考慮することは大切です。しかし、人の体は神経系だけではありませんし、人の存在は肉体だけでもありません。

 

神経系は考慮すべき大切なものであり、有用な情報でもありますが、それが全てではない、と思います。

 

 

  • それ以上のものがあるのもまた事実

あなたがやっているワーク、受けているワーク、、それが本当はどういうものなのか、神経系から見た情報は一つ有益な見方です。それを見つめ直してみるのはいいことだと思います。しかし、人の存在、体の変容は、、もっと大きな器の中で起きていることもまた事実です。

 

癒しが起こる地点、変容が起こる地点、もっと大きな何かが介在している地点。そういったものをソマティックエクスペリエンスでは考慮していません。事実、この世界でリアルにそれは有益か、人の役に立っているか、傷つけはしていないか、リアルの現実をもう一度見直し考察してみると(わたしも含めて)良いと思います。